2007年02月12日

第六話……襲撃

 二人は順調に歩みを進め、小田原宿青物町を通過した。今まで人目を避けて裏道を急いでいたことを思えば会心の行程だ。
 街道を征き始めたのだ。
 裏道でも見付かり、榊という助っ人を得ての決断である。天下の東海道は思いの外快適であった。
 しかし……榊が足を止めて振り返る。
 数人の農民と旅人が、間を置いて路を急ぐ。後ろからは籠かきが健脚にて追い越そうと端に寄っていた。
 榊は舌を打つ。
 「矢島どの、来なすったぜ。用意しな」
 「……え、しかし」
 追い越そうとする籠かきを、腕を掴んで引き止めた。
 「妙だな。籠から刀の音がしているぜ」
 籠かきが榊の腕を振り払うのが合図となった。周囲の者計五人、榊と矢島を取り囲む。しかし、姿は農民や町民だ。
 刀は……籠の中にあった。
 次々に配られる大刀。二人は包囲された。
 「もう少し城下を離れてから、と思ったが……」
 籠の男が刀を抜いた。
 「貴殿らは殺気が強すぎてな。皿だけ狙っていればいいものを……命狙っちゃいけねぇやな」
 「戯言を。その口、封じさせてもらう。やれ」
 咄嗟に榊は矢島を突き飛ばし、輪の外へやる。そこへ刀が殺到。榊は受け止めるでもなく抜刀し、正面の男の腹を割って中心へ投げ込んだ。
 「いいぜ、来な」
 振り下ろされた四振りの刀。それは腹を割られた仲間へのとどめとなっていた。
 「おのれっ」
 だらり、と刀を提げる榊を再び囲む。
 「覚悟」
 斬り込む刀を捌いて腕ごと捕え、そのまま背後へ。その刀は突っ込む仲間の頭を割った。そして榊は捕えた男の頸動脈を切断。二人は同時に地に堕ちた。
 「囲むと相討ちやっちまうぜ」
 「ぬぅ……」
 「まったくだ」
 怯む二人の背後、茶屋の庇より声が飛ぶ。
 「貴様らはいらん。矢島を追え」
 異様な殺気を放つ、細面の曲者。
 「おめぇさんは……」
 「静馬よ。榊十兵衛、覚えていよう」
 「さて……物覚えは悪い方でな」
 しかし、刀を抜く静間に呼応するかのように、榊に気迫が張り詰めた。
 「覚えていようがいまいが構わん。貴様は拙者が殺る」
 榊の前で構える二人は、どちらとも決め兼ね顏を見合わせた。
 「さっさと矢島を追え。この男との勝負に水を差さんでもらおう」
 二人は頷き、姿の消えた矢島を探しに駆け出した。
 「さてさて……静馬さんよ、今は仕事中でな。勝負はまた今度にしねぇかい」
 じわり、と二人の間合いが詰まる。
 「気にするな。死ねば関係なかろう」
 「洒落も通じねぇやつだ」
 「いざっ」
 静馬の刀が閃いた。


    つづく!!


 
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2007年02月02日

第五話……二刀




 燈籠の火を落とした部屋に、障子を透かして差し込む月光が足を伸ばす。その蒼い光に顏を照らされる男たちは、大口を開けて寝入っていた。
 榊と矢島。大酔後の惨状だ。
 あれより二刻、さんざんに呑み倒し、酒乱気味の八島が暴れ出した所で店より放り出されたのである。ただ、幸いにも店主が宿屋を紹介するだけの人情があったのが救いだ。
 前後不覚左右無知、馬鹿の大鼾。大の字姿はあまりに無防備に見えた。
 それを確認して頷く影が三。
 覗いていた襖の隙間に指をかけ、そっと開いた。音を悟られぬよう、刀は廊下で抜く。
 手筈通り、とばかりに三人は寝床に忍び入った。
 「遅いじゃねぇか」
 息を止めた。
 「起きていたか」
 榊はすでに半身上げていた。
 「おぅ、待っていたからな」
 「ならばっ」
 三人は同時に躍り掛った。
 榊の抜いた大小二本の刀は、同時に打ちかかる三人の刀を全て受け止めた。
 闇に一閃火花が疾る。三人はたたらを踏んで転倒した。
 「き、貴様ぁ」
 立ち上がりざま打ちかかる刀を小太刀で捌き、大刀で喉に突き入れる。引き抜く動作と同時にもう一人、小太刀で胴を割っていた。
 「終りか」
 「うわぁぁぁっ」
 気迫負けだ。遮二無二振り回す刀を避けて、榊は素手で腕を捕る。……と、直後男は宙を舞い、そのまま背後から両腕を極められていた。
 「戻って伝えろ。皿如きに人の命までついでに狙う根性が気に入らん。この榊、矢島殿に助太刀いたす」
 
 目を覚ますと、既に矢島が身を正して控えていた。
 榊は差し込む朝日に嫌悪感を感じつつ床より上がる。
 「申し訳ござらんっ」
 開口一番矢島は額が擦れんばかりに平伏。榊は、邪魔だとばかりに手を振った。
 「いつまで頭下げてんだよ。その話は決着ついたろ」
 「いやしかし、酒が入ったとはいえ、そこもとを我が家の騒動に巻き込むこと
に……」
 昨夜の侵入劇は知らないらしい。この男、存外胆が太いのか……或いは鈍感なのか。
 「なぁに、袖触れ合うも何かの縁、旅は道連れ世は情け、ってな。金は貰う。仕事だ。早いとこ片付けちまおうぜ」
 「かたじけない」
 「どぉも片っ苦しくていけねぇ。行くぜ」


   つづく!!



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2007年01月31日

第四話……失態


 「さらぁ〜」
 「左様、それも九谷焼き」
 刀利きはやるのだが……皿など気にしたこともない榊である。九谷焼きも信楽焼きもいっしよくただ。

 話を要約すると……藩主に家老達が呼ばれ、宴が催された。料理に使われた揃いの皿が九谷焼き。藩主自慢の品だ。宴もたけなわ、気付くと矢島の皿にひびが。下手をすれば切腹ものの事態。彼は咄嗟に贋作とすり替え事なきを得た……かに見えた。しかし見られていたのだ。家老、間宮善三郎。全ては間宮の計略であったのだ。
 再び国元より藩主が江戸屋敷に上るまであと三日。

 「腹が掛っちまった訳かい」
 矢島が頷いた。
 「嫌だねぇ、宮仕えってなぁよ」
 榊はつくねの並ぶ皿を指で弾いた。
 「こんな物に腹が掛っちまうんだからなぁ」
 押し黙る矢島。納得などしている訳ではないのだ。
 「で、矢島さんよ、おめぇさんはどうするんだい」
 「はぁ……」
 酔いに赤い顏を上げる。
 「皿ごと殺そうとしなすってるぜ、間宮はよ。酒に酔わねぇと事実を話せねぇし、腰の二本も重そうに引きずるおめぇさんだ。このままじゃ親子揃って三途の川でご対面だぜ」
 しかし矢島は再び顏を伏せるばかりだ。
 「……しょうがねぇなぁ」
 榊は眉間に皺を寄せて、頭をかき回す。
 「金はあるか」
 唐突な質問に矢島はむせ返る。
 「か、か、か、金でござるか」
 「応よ、人を雇うにゃ金子が必要であろう」
 「ま、ま、まさか榊どのを……でござるか」
 「不服かい。おめぇさん一人では江戸に辿り着けまい。俺もついでに命を狙われちまった。どうだい、悪い話じゃあるめぇ」
 身を乗り出す榊に、矢島は戸惑った。
 「願ってもない申し出ではありますが、拙者、雇う程の持ち合わせは……」
 「役付きの家柄でしみったれたこと言ってるんじゃねぇよ。刀の研ぎ代に色付けてくれりゃ満足よ。どうだい」
 にやりと笑う榊へ、すがるように銚子を差し出した。
 「お願い申す」


    つづく!!



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2007年01月26日

第参話……隠し事

 「おう、お銚子もう一本。熱燗でつけてくんな」
 「あいよぉ」
 町民でごったがえす飲み屋、九助。女将の返事は酔いどれの馬鹿話にも負けずに響いていた。
 「まことに申し訳ないっ」
 お銚子を振る榊の前で、男は机に額を押し付けた。
 髷に剃り上げた月代。仕官の侍だ。手入れのされていない榊とは大違いである。
 「そりゃいいからよ、矢島どの、顏上げなって」
 言いつつ榊は男の猪口に酒を注ぐ。
 「誰にでも間違いってのはあらぁな」
 自分の猪口に傾けるが虚しく雫が落ちた。
 「しかし、拙者が不甲斐ないばかりに、そこもとの命が狙われるはめに……」
 榊は机に置かれた銚子を指先でつまんだ。
 「あち。いや、そりゃいいんだがよ、気になっちまってな」
 酒で満ちた猪口をにんまりと傾けた。
 「気になる、でございますか」
 矢島もちびちびと舌をつける。
 「おめぇさんこそ、何故命を狙われていた」
 矢島の舌が止まった。
 「いけねぇなぁ。俺のこと謝るだけで済まそうと思っていなすったろ。誤魔化そう、てぇのが見え見えだぜ」
 図星のようだ。
 矢島は榊から銚子を奪うと、そのまま煽って飲み干した。
 「もう一本、よろしいか」
 呆れた榊は、傍を歩く女将に指二本立てた。
 「熱燗でな」
 「あいよ」


 「家老の間宮殿と矢島、ご存じか」
 「おぅ、間宮って謂やぁ前将軍にあやかって、犬を寵愛するってんで有名な……。矢島ってなぁ、穏健忠実ってぇ……矢島」
 榊は眉根を寄せた。
 「左様、父でござる」
 なぁるほど。
 猪口を煽って再び注ぐ。
 「加えて言えば、両名は次期筆頭家老候補。内部派閥が出来る始末」
 そこで矢島は銚子を煽る。野間図に語れるか、といった気分のようだ。
 「すまぬ、一本冷やで頼む」
 「で、おめぇさんの狙われる理由は何だ」
 足許より風呂敷包みの木箱を引き寄せた。
 「悪いが目利きはやらねぇよ」
 「中身は皿でござる」
 

   つづく!!



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2007年01月24日

第弐話……狂喜


 其の男、懐手を油断なく刀の柄にかけ、すらり、と抜いた。
 「すまぬことをしたな。名だけは訊いておこう」
 筋の通らぬ台詞にも、彼は落ち着いて下段に構えた。
 「榊十兵衛。さぁて、貴殿に殺れるものかな」
 「さて……なっ」
 男の手より短刀が放たれた。しかし榊は余裕で身を躱す。……そこに、上段より男の蛤刃の刀が頭頂目がけて打ち下ろされた。
 「くぅっ」
 火花が散った。摺り上げた榊の刀、弐尺五寸のそれは男の一撃を凌いでいた。 間発入れず、男は鍔を打ち当て榊を押した。

 「やってくれる」
 「言ったであろう、殺る、とな」
 ……笑ってやがる。
 夕日に照らされるその顏は、紅に染められ不気味に歪んでいた。
 ……ならば。
 榊は刀を押しつつ足を払う。
 「うおっ」
 さすがに意表を突かれた男は転倒。しかし身を転じて榊の刃を逃れた。
 「いぁぁっ」
 男の刀身が水平に榊の胴へ疾る。それへ、榊は真っ直ぐに振り下ろした。
 「はぁぁぁっ」
 「……な」
 男は言葉を失った。
 無いのだ。
 厚重ねにして、兜さえ両断すると謂われる蛤刃の刀身が……。
 両断された。
 「きさま……」
 榊は男に剣尖を据えた。
 「どうした、殺るのであろう」
 男は呻くような声を洩らす。
 「我が名は静馬」
 「……ん」
 男、静馬は脇差しを抜きざま刀を撥ね上げた。
 「覚えておれ。貴殿、必ずや殺してみせる」
 飛来する短刀は三。
 榊は刀の一振りで地に叩き落とした。
 「判断の早い男だ」
 姿が消えていた。この隙に逃げたのだ。
 「静馬とか……中々」
 叩き落とした短刀を拾い上げる。いや、短刀ではなかった。忍びの者が携行する、棒手裏剣。
 「はは……こりゃ曲者だ」
 榊は辺りを見廻し、無造作に納刀した。
 いつの間にか闇が押し寄せ、残るは足許の血痕とそして……
 「で、矢島ってのはおめぇさんかい」
 虚空への問い掛けに、雑木林の草が騒めいた。
 「安心しな。殺しゃしねぇよ。それより、人違いされた男に挨拶くらいしねぇのかい」

    つづく!!


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第壱話……闇討ち


 風の匂いが変わった。
 雑木林に両脇を挟まれた砂利道は、すっかり傾いた夕日に紅く染められている。秋風が軽く耳朶をなで、枯れ葉の音色を運んでいた。先程まで囁き合っていた鳥達も、すっかり声を潜めてしまったようだ。
 人の気配だ。それも殺気。
 「出て来てもらおうか」
 落ち着いた口調にも、抗い難い響きがこもっていた。
 蠢く気配は五。よくも揃えたものだ。
 「矢島修三殿か」
 押し殺したような、不快な声音、
 「参ったな。人違い、と言っても信じちゃくれないんだろうな」
 言いつつも軽く笑みを浮かべた。
 「用向きは」
 「お命、貰い受けるっ」
 微かな鍔鳴りが聞こえるや否や、左右の雑木林より四人、刀を振りかざして殺到した。
 腰間一閃、彼の刀が右の二人の小手を斬り上げ、そのまま背後へ廻る。
 斬り損ねた左の二人は再び刀を振り上げる……が、彼に蹴飛ばされた仲間ともつれて動きを封じられた。
 「見逃す。療養所へ連れて行け」
 手首よりだくだくと血を流す仲間を抱え、二人は呆然と彼を見た。
 視線は他にあるが……隙がない。
 「出てこい。貴様一人で話は足りよう」
 声に応じ、眼光鋭い二本差しの男が懐手に現れた。
 「やるね兄さん。こりゃぁ本当に人違いか」
 「だったらどうする」
 男の口が、不気味に歪む。
 「……殺るまでよ」

つづく!!


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posted by 黒幕 at 11:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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